食物アレルギーとはどんな病気?
食物アレルギーとは、「卵・牛乳などの食べ物を摂取した後に、免疫学的メカニズムを介して、生体にとって不利益な症状(皮膚の赤み・じんましん・せき・ぜん鳴・嘔吐・アナフィラキシーなど)が起こる現象」を言います。
言い換えると、体にとって、本来は「敵」ではない食物が、「敵」と認識されて体が「攻撃」してしまう状態です。
近年、食物アレルギーは増加傾向にあり、乳児が最も多く5~10%、保育園や幼稚園では1クラスに1~2人、学校でも学年に1~2人は食物アレルギーのお子さんがいるようです。
食物アレルギーの検査方法
A. 問診
症状が出た時に、何をどれくらい食べたか、どんな症状が現れたかなどを、問診することで、血液検査をしなくても原因食物がわかることがあります。
B. 血液検査
最も広く行われている検査です。原因と考えられる食物に対するIgE抗体を調べます。問診で複数の食物が疑われる場合にとても便利です。しかし、IgEが陽性だからと言って食物アレルギーの診断が確定するわけではありません。
IgEは一つの目安であり、これが陽性でもその食物を摂取できる場合があります。血液検査の結果から多品目の食物を、長期間除去し、いつまで除去するのか分からずに悩んでおられる患者さん(保護者の方)がとても多いのが現状です。お困りの方は、是非ご相談ください。
C. 皮膚プリック検査
抗原のエキスを垂らして、そこに皮膚検査用の針を押し付けることによりできる膨疹の大きさで判断します。この検査の良いところは、15分で結果が出ることです。更に、食物自体に針を刺してもできるので、例えば血液検査に無いような食品、あるいは調理法による違いも判断できる場合があります。
例えば、血液検査では「いわし」の一項目しかありませんが、焼いた「いわし」、生の「いわし」などご持参いただければ検査可能です。是非ご相談ください。
D. 食物経口負荷試験
実際食べてみて症状が出るかどうかを調べる検査であり、最も信頼できる検査です。当院では、外来経口負荷試験を行っています。とても重要な検査ですので、改めて項を設けてご説明いたします。
→食物アレルギー経口負荷試験
なぜ食物アレルギーになるの?
以前、イギリスでピーナッツオイル含有の保湿剤が使われていました。近年、特に湿疹のあるこども達を中心にピーナッツアレルギー患者が急増しました。
詳細を調べると、ピーナッツアレルギー患者の約9割が、生後6ヶ月までにピーナッツオイル入りの保湿剤を使用していたことが判明しました。
これと同様のことが日本でも起きました。2010年、茶のしずく石けんを使用した人の小麦アレルギーあるいはアナフィラキシーの発症が多数報告されました。
これは社会問題になり多くのメディアでも取り上げられました。実は、この石けんの中には泡立ちをよくするために加水分解された小麦が含有されていたのです。
今まで、小麦を食べても全く問題ない(症状が出ない)人が、突如として小麦アレルギーの症状を呈するようになったのです。
皮膚からのアレルギー物質の侵入
ところで、皮膚から食物が侵入してその食物の感作が起きる(その食物のIgE抗体が上昇する)ことを「経皮感作」と呼びます。これは、結果的に食物アレルギーの発症リスクを高めます。
上で書いたお話は、ピーナッツオイルや小麦入りの石鹸を皮膚に何度も使ってピーナッツや小麦への感作が進んだのが原因と考えられます。しかし、感作の原因は保湿剤や石鹸だけではありません。
家庭内によくある食品に関しては、この後にお話しするように湿疹があるだけでそのリスクが高まると言われています。ミルクを飲んだ時に口の周りに湿疹があれば、皮膚に付いたミルクから牛乳への感作が進み、卵に触れた手で湿疹のある赤ちゃんの皮膚を触れば、卵への感作が進むと考えられます。
更には、家庭のホコリの中には目に見えないレベルで牛乳、小麦、卵などの食物抗原が入っていることが分かっています。家中をハイハイする月齢のお子さんなら、ホコリが皮膚に接触する頻度も増えます。このホコリが皮膚に長時間付着することによって感作が進む可能性もあり得るのです。
食物アレルギーを予防する考えられる2つの方法
A. 湿疹のコントロールを良くする
このようなメカニズムは、湿疹があると起こりやすく、皮膚のコントロールが良ければ、皮膚本来のバリア機能が体内への侵入を防ぐため、そのリスクは格段に減ります。そのタイムリミットは恐らく生後4か月前後であろうと思われますが、これは現在研究が進められています。
とにかく、重要なのは、なるべく早期に適切なスキンケアを行って湿疹を治し、ツルツルなお肌=「経皮感作を受けにくい肌」を作っていくことです。湿疹やスキンケアの方法などでお困りの方、お気軽にご相談ください。
B. 食物除去ではなく早期摂取
一昔前までは、食物アレルギーの治療の基本は、食物の除去でした。しかし、今、世界中でこの考えが見直され、新しい予防・治療の有効性が証明されてきています。以前は、消化管が未熟な乳幼児期は、卵、ピーナッツなど食物アレルギーの原因になりやすい食物は避けた方が良いと考えられ、更に、妊娠期、授乳期のお母さんも除去をした方が予防に有効なのではないかと考えられていました。
しかし、この考えは現在では根拠のないものとして改められ、最新の欧米・日本のガイドラインでも除去は推奨しないと記載されています。
更に、2017年、国立成育医療研究センターから画期的な研究報告がありメディアにも取り上げられました。この研究では、アトピー性皮膚炎の乳児を対象に、生後6か月から1歳まで卵を「完全除去」したグループと少量の卵を「連日摂取」したグループの卵アレルギーの発症を比較しました。
結果は、1歳時点での卵アレルギーが「除去」グループでは38%であったのに対し、「摂取」グループでは、8%と明らかに低かったのです。しかも、卵を食べていたのにアレルギーになってしまった人は、アトピー性皮膚炎のコントロールが悪かったことも分かりました。
これらを受けて、同年、小児アレルギー学会から「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」が発表されました。この提言では、アトピー性皮膚炎に罹患した乳児は、皮膚の治療をしっかり行いつつ、生後6か月には微量の鶏卵摂取を開始することが推奨されました。ピーナッツに関しても海外で同様の報告があり、特定の食物に限ったものではない、と思われます。
当院でも、アトピー性皮膚炎の治療を積極的に行いつつ、早期に少量摂取を開始し、食物アレルギー発症の予防を全力で行っています。
食物アレルギーの治療=経口免疫療法
先ほどもお話ししましたが、食物アレルギーの治療は、一昔前まで「食物の除去」しかありませんでした。そのため、除去食の対応は成長期のお子さんやご家族にとっては精神的な負担が大きかったのです。
食物アレルギーのお子さんの約8割は6歳までに自然に治ると言われていますが、重症度や原因食物によっても異なります。重症なお子さんではもっと治りにくいという報告もあります。
そのような状況の中、近年、原因食物が少しでも食べられるようであれば積極的に食べつつ、徐々に食べる量を増やしいていく「経口免疫療法(減感作療法)」が注目され始めています。
「食べて治す」治療です。
経口免疫療法は、増量ペースにより大きく2種類があります。急速法(入院、2~4ヶ月程度)と緩徐法(主に外来、数ヶ月~数年程度)です。当院では、外来で行う緩徐法を行っています。
経口免疫療法の流れ
まず、最初に摂取する量を決めます。それを決める検査が、食物経口負荷試験です。原因食物の閾値(症状のでる最少量)を明らかにし、その1/10程度の量を初期量として決めます。
その量を自宅で連日(少なくとも週4以上)食べてもらいます。
1-2か月の間隔で負荷試験を行い、閾値が上がれば自宅での摂取量も増やします。当院では、より安全に食物アレルギーの治療を行うため、摂取の増量も自宅では行わず、当院での負荷試験を行ってから増量いたします。食物経口負荷試験に関しては別頁で改めてお話ししますので、ご覧ください。
→食物経口負荷試験のページ